いい湯だな
公開日:2023年5月25日
No:a0046/https://doi.org/10.57554/a0046
日曜日の昼下がり、突然、温泉に行きたくなる。福井に住んでいた三十数年前なら、夕陽が沈む時間を見計らって車を飛ばし、越前海岸の日帰り温泉「漁火(いさりび)」に向かっていたところだ。露天風呂にゆったりと浸かり、潮騒に耳を澄ませながら、夕陽が水平線に完全に沈むまで日本海の景色を堪能する。丸い太陽が水平線に隠れるほんの少し前には、オレンジ色の光が一瞬真横に広がって、今日一日への別れの挨拶のように見える。日が完全に沈んだ後の、海の碧と空の青との間に横たわる茜色のグラデーションも、太陽が退場した後の余韻として誠に相応しい幕引きだ。
しかし、ときは令和、ここは東京。妄想に耽っているうちに、漆黒の闇の時間となってしまう。さっさと湯に浸かりに出かけなければならぬ。とはいえ、どこへ参ろうか。現在の住まいに引っ越してきた二十数年前は、まだ下町の商店街のような風情を残していた麻布十番によく出かけた。温泉で温まった後で、並びの「永坂更科」で蕎麦をたぐったりもしたが、その麻布十番温泉は2008(平成20)年に閉店し、ビルも残っていない。それならば、子供らを連れて行ったこともある「東京お台場 大江戸温泉物語」はというと、2021(令和3)年に閉館となってしまっている。子供たちが通っていた小学校近くの銭湯が閉じてしまったのも、もう何年も前だ。東京では、挨拶も交わさぬうちに、数多くの別れが、日々ただ通り過ぎているのである。
そこで浮上してきたのが、戸越銀座である。我が家からは地下鉄で3駅先だ。子供たちが小学生だった頃、1人でぶらついてみたら楽しかったので、家族を連れて行ったがそれきりになっている。筆者は幼稚園児の頃、東武東上線沿線の大山銀座商店街に親しんでいたので、北品川や阿佐ヶ谷など、庶民的な町並みを散策するのが好きなのだが、妻は銀座や青山が似合う人なので、あまり興味がわかなかったのかもしれない。そもそも「○○銀座」と名の付く商店街は、中央区の銀座とは似ても似つかぬことが必定である。「○○銀座」の商店街に行き、「なんだ、全然銀座じゃないじゃないか」などと怒る人はいないのである。
戸越銀座へは、五反田までの坂を一気に下り、そこから丘を登って行けばよい。とはいえ自転車に乗ること自体が久しぶりなので、ブロンプトンで裏通りをのんびり行くとしよう。片道4kmちょっとなので、歩いても行けないことはないくらいの距離である。15分くらいで着いてしまった。サイクリングと言うのも恥ずかしい。日曜午後の商店街は活気にあふれており、賑やかだ。かといって自転車を押して歩かねばならぬほど混んでもいない。ちょうどよい(写真1)。気を良くした私は、温泉に直行する。その名も「戸越銀座温泉」だ(写真2)。自転車置き場も用意されている(写真3)。
写真1 戸越銀座商店街
写真2 戸越銀座温泉入り口
写真3 戸越銀座温泉駐輪場
シン鉄・輪だより ~鉄人糖尿病ドクターによる銀輪の旅~ 一覧へ
しかし、ときは令和、ここは東京。妄想に耽っているうちに、漆黒の闇の時間となってしまう。さっさと湯に浸かりに出かけなければならぬ。とはいえ、どこへ参ろうか。現在の住まいに引っ越してきた二十数年前は、まだ下町の商店街のような風情を残していた麻布十番によく出かけた。温泉で温まった後で、並びの「永坂更科」で蕎麦をたぐったりもしたが、その麻布十番温泉は2008(平成20)年に閉店し、ビルも残っていない。それならば、子供らを連れて行ったこともある「東京お台場 大江戸温泉物語」はというと、2021(令和3)年に閉館となってしまっている。子供たちが通っていた小学校近くの銭湯が閉じてしまったのも、もう何年も前だ。東京では、挨拶も交わさぬうちに、数多くの別れが、日々ただ通り過ぎているのである。
そこで浮上してきたのが、戸越銀座である。我が家からは地下鉄で3駅先だ。子供たちが小学生だった頃、1人でぶらついてみたら楽しかったので、家族を連れて行ったがそれきりになっている。筆者は幼稚園児の頃、東武東上線沿線の大山銀座商店街に親しんでいたので、北品川や阿佐ヶ谷など、庶民的な町並みを散策するのが好きなのだが、妻は銀座や青山が似合う人なので、あまり興味がわかなかったのかもしれない。そもそも「○○銀座」と名の付く商店街は、中央区の銀座とは似ても似つかぬことが必定である。「○○銀座」の商店街に行き、「なんだ、全然銀座じゃないじゃないか」などと怒る人はいないのである。
戸越銀座へは、五反田までの坂を一気に下り、そこから丘を登って行けばよい。とはいえ自転車に乗ること自体が久しぶりなので、ブロンプトンで裏通りをのんびり行くとしよう。片道4kmちょっとなので、歩いても行けないことはないくらいの距離である。15分くらいで着いてしまった。サイクリングと言うのも恥ずかしい。日曜午後の商店街は活気にあふれており、賑やかだ。かといって自転車を押して歩かねばならぬほど混んでもいない。ちょうどよい(写真1)。気を良くした私は、温泉に直行する。その名も「戸越銀座温泉」だ(写真2)。自転車置き場も用意されている(写真3)。

写真2 戸越銀座温泉入り口
写真3 戸越銀座温泉駐輪場