脂質異常症の治療 コレステロール低下薬の最新エビデンス
1.ポイント
・高LDL-C血症は動脈硬化リスクとなる。特に遺伝的な高LDL-C血症(家族性高コレステロール血症:FH)はリスクが高く見逃さないように気をつける。
・LDL-C低下薬は動脈硬化リスクを軽減する。動脈硬化リスクが高いほど、LDL-Cの管理目標値を低く設定して治療する(the lower, the better)。
・まず内服薬をエビデンスの順に(スタチン>小腸コレステロールトランスポーター阻害薬[エゼチミブ]>陰イオン交換樹脂[レジン])適宜組み合わせて使用し、内服でも管理目標値に達しなければPCSK9阻害薬を用いる。
・二次予防の場合など、速やかなLDL-C低下が望ましい場合は、スタチンに加えて早期のPCSK9阻害薬の導入を検討する。
・高LDL-C血症の動脈硬化リスクは、LDL-C値が高いほど、またその期間が長いほど高くなる(cholesterol x years risk:生涯コレステロールリスク)。どのくらい下げるか、とともに、いつから下げるか、いかに早期に診断し治療を進めるか、が大切である(the lower, the earlier, the better)。
2.総論
高LDL-C血症は動脈硬化の最大のリスクの一つである。そのリスクは、動脈硬化の危険因子(加齢、男性、脂質異常症[LDL-C、HDL-C]、高血圧、耐糖能異常、喫煙など)を多く有するほど高い。糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、末梢動脈疾患(PAD)を有する場合はリスクが高く、遺伝的な高LDL-C血症(家族性高コレステロール血症:FH)がある場合にはさらにリスクが高い。また、一次予防よりも二次予防(冠動脈疾患またはアテローム血栓性脳梗塞)ではリスクが高くなる 1)。
多くの臨床研究から、LDL-C低下薬を用いると、LDL-C低下とともに動脈硬化リスクが減少すること(the lower, the better)が確立されてきた。LDL-Cは治療可能かつ治療効果の高い動脈硬化リスクである。動脈硬化リスクの高い人ほどLDL-Cをしっかりと下げることが大切である。
日本動脈硬化学会によるガイドライン(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版)はこの基本に基づいて作られている。2022年版では、従来版よりもLDL-Cの管理目標値がより詳しく、個々のリスクに対応できるように設定されている。一次予防では、リスクに応じて低リスクは160mg/dL未満、中リスクは140mg/dL未満、高リスクは120mg/dL未満だが、さらにハイリスクな高リスク(糖尿病かつ「PAD、細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)合併時、または喫煙あり」の場合)では<100mg/dLを考慮する。二次予防(冠動脈疾患またはアテローム血栓性脳梗塞)では基本的に100mg/dL未満だが、さらにハイリスクな二次予防(「急性冠症候群」、「家族性高コレステロール血症」、「糖尿病」、「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞[明らかなアテロームを伴うその他の脳梗塞も含む]」のいずれかを合併する場合)では70mg/dL未満を考慮する 1)。
管理目標の達成のため、内服薬をエビデンスと薬価を考慮して用いる(スタチン>エゼチミブ>レジン)ことが基本となるが、それでも下がらない場合は、PCSK9(プロ蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)阻害薬が適応となる。
PCSK9阻害薬は、LDL受容体の分解を促進する蛋白PCSK9(図1)に対する抗体医薬(皮下注)である。LDL受容体の発現増強を介して、強力なLDL低下作用(約60%減)を有し、心血管イベント抑制のエビデンスが示されている。PCSK9阻害薬処方にあたっては、薬価が高いこと、長期的な安全性は今後の課題でもあることに留意し、適応は慎重に判断する 2〜4)。適正使用の観点からは、①FH、②心血管イベントのハイリスク病態(主に冠動脈疾患二次予防)、③スタチン不耐、がPCSK9阻害薬の良い適応となる。