糖尿病患者の足を守る「足の疾患センターの役割」 ―前編 医師の立場から

  • 田中里佳 Tanaka, Rica
    順天堂大学医学部附属順天堂医院 足の疾患センター センター長/順天堂大学大学院医学研究科再生医学 主任教授/順天堂大学医学部形成外科学講座 教授
公開日:2023年3月14日

はじめに

 糖尿病の足病変は、無症候性から不可避的な切断を伴う致命的な難治性潰瘍までさまざまである。主な病因は虚血、神経障害、および感染症であり、外傷、末梢浮腫、足の変形が加わると、糖尿病性足潰瘍の切断のリスクがさらに高まる可能性がある。単一診療科では治療困難であり、多職種、複数科がそれぞれの専門の知識を統合し、足病変から生じる症状を一つずつ順番に管理・解決して、予防から治療までチームで取り組む必要がある 1)
 糖尿病性足潰瘍の発症の要因には全身的要素、患部局所的要素、精神的・教育的要素が存在する。全身的要素として血糖コントロール不良、腎不全、低栄養などが潰瘍悪化を招き、これらは内科医師・糖尿病認定看護師・糖尿病病態栄養専門管理栄養士などによる治療が必要となる。潰瘍を生じる局所の病態の主な背景には末梢神経障害、血流障害、感染、骨の変形がある 2)。局所の病態に関しては、形成外科、整形外科、皮膚科、血管外科、循環器内科、理学療法士、義肢装具士、看護師などさまざまな専門家によるアセスメントと治療と予防が必要となる。糖尿病性末梢神経障害は、知覚障害、ハンマートゥ、クロウトゥ、外反母趾などは足変形を来し、自律神経障害は皮膚の乾燥や亀裂、シャルコー変形、胼胝などを生じる。これらの症状に発展する前に、足病変をアセスメントして、足のスキンケアとフットケアとフットウエアによる除圧や免荷などの治療を行わなければならない 3)
 糖尿病は動脈硬化を生じやすく、下肢の虚血が進行すると足壊疽を生じ下肢切断の誘因となる。フットケアの段階でSPP(Skin perfusion pressure:皮膚灌流圧)、ABI(Ankle brachial index:足関節上腕血圧比)、TcO2(Transcutaneous oxygen tension:経皮的酸素分圧)の測定を行い、血行状態を判断し、その結果をもって循環器内科・血管外科による血行再建を行う必要がある 4)
 神経障害と血行障害が進行し、潰瘍が生じた場合には、皮膚科・形成外科が潰瘍治療に当たる。骨髄炎、壊死性筋膜炎などの感染を併発した場合には、感染症の専門家と相談しながら適切な抗菌薬の投与を行う。形成外科は壊死組織除去術(デブリードマン)5)、断端形成術、皮弁形成術などにより潰瘍治癒を目指すが、血流障害が認められる創傷を治癒することは困難であり、循環器内科医・血管外科医による血行再建は必須となる。創傷までしっかり血流が保たれていなければ潰瘍は治らない。虚血下肢においては形成外科と循環器内科・血管外科との連携は必要不可欠となる。
 潰瘍治療中・潰瘍治癒後におけるリハビリテーション科・理学療法士によるADLの維持や歩行訓練も重要な取り組みである。また、歩行を維持しながら潰瘍治療を行うためには潰瘍面を免荷できる装具が必要となる。潰瘍治癒後には再発予防のための装具を準備する。フットケアから潰瘍治療、そして治療後の再発予防において、上記に述べた診療科すべての協力なしには糖尿病性足潰瘍の治療は完結しない。これらの取り組みは糖尿病性潰瘍の下肢切断を回避でき、潰瘍治癒率を促進することが可能であり必ず実施しなければならないチーム医療である 1, 3)

1.日本における足病医療の現状

 欧米には足の診療を専門にする学問である足病学(Podiatry)があり、その診療を専門にする足病医(Podiatrist)という国家資格が存在する。「足が痛い」という症状一つにおいてもさまざまな疾患より足の痛みは生じる(図1)。日本の患者は足の症状について自身で考え、診療科を選択し受診する必要があるが、欧米では足病医を受診することで足に関するすべての疾患を診てくれる。足病・足外科認定医の主な診療内容は、足のイボ、ガングリオン、シャルコー足、モートン病、外反母趾、靴のトラブル、足根管症候群、中足骨骨頭痛、足底腱膜炎、足底線維腫、水虫、内反小趾、糖尿病性足潰瘍、虚血下肢など多彩な疾患を取り扱う(図2)。しかし、日本では足病学による教育や専門医制度がないため、疾患により形成外科、整形外科、外科、血管外科、循環器内科、皮膚科などの診療科が各科で足病患者の診療に当たっている。しかし、チーム医療や横断的な診療がなされていない場合には、それぞれの専門外の疾患については対応が困難なケースが生じる。また、日本においては、「足が痛い」と感じたとしても、原因が分からない段階でどの診療科を受診してよいか分からないため、足の症状を放置する患者が多く存在することが想像される 6)図3に示すように「足が痛い」という主訴で来院された患者をアセスメントするとさまざまな疾患が認められ、それらすべてが関与して足の痛みを呈している。これらの疾患すべてに治療介入することで患者の症状を改善する。また、同時にフットケアとフットウエアを処方することで生涯歩ける足を守ることが可能となる。

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