FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症―X連鎖性低リン血症(XLH)と腫瘍性骨軟化症(TIO)の最新エビデンス―
公開日:2023年10月2日
No:a0070/https://doi.org/10.57554/a0070
1.ポイント
- 線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor:FGF)23関連低リン血症は、FGF23作用過剰により慢性低リン血症をきたし、小児ではくる病、成人では骨軟化症をきたす。低リン血症性くる病・骨軟化症を疑った場合、慢性低リン血症であることを骨型アルカリフォスファターゼ(bone alkaline phosphatase:BAP)高値で確認し、その後に血清カルシウム値と血清1α,25水酸化ビタミンD(1,25 dihydroxy vitamin D:1,25OH2D)が基準内中央よりも低値であることから原発性副甲状腺機能亢進症を除外した上で、低リン血症存在下でのFGF23相対的高値(≧30pg/mL)の有無を確認する。
- 完全ヒト型抗FGF23モノクローナル抗体であるブロスマブは、血清リン、1,25OH2Dを従来療法(経口リン製剤、活性型ビタミンD製剤)より効率的に改善し、偽骨折、骨折の高い治癒や予防効果が期待できるため、X連鎖性低リン血症(X-linked hypophosphatemia:XLH)および原因腫瘍が同定できないまたは手術が困難な腫瘍性骨軟化症(tumor-induced osteomalacia:TIO)症例(関節置換が必要となる例や美容的な問題が生じる例なども含む)に対して有用である。また経口リン製剤や活性型ビタミンDによる従来療法で問題となる腎機能障害進展のリスクを回避できる。
- XLHではくる病・骨軟化症のほかに、脊柱靱帯骨化症、関節周囲の骨棘、アキレス腱の腱付着部症といった異所性骨化症を30~40歳以降に合併し、QOL低下の原因となるが、病因は明らかでなく血中リン濃度の補正や抗FGF23抗体による改善は見込めない。
- 後天性FGF23関連低リン血症性骨軟化症で最も高頻度なのは、骨や軟部組織に発生するphosphaturic mesenchymal tumor(PMT)によって惹起されるTIOであり、局在診断がなされれば、拡大切除により治癒が期待できる。
- PMTの局在診断には、fluorodeoxyglucose-positron emission tomography/computed tomography(FDG-PET/CT)、本邦で保険未収載だがFGF23全身静脈サンプリング(FGF23 venous sampling:FGF23VS)、68Ga-DOTATOC PET/CTが有用である。
- TIO以外の後天性FGF23関連低リン血症の鑑別疾患として、静注鉄剤、アルコール、神経線維腫症1型、悪性腫瘍に伴う異所性FGF23症候群がある。
2. 総論
1)病態
FGF23は成熟骨細胞から産生されるホルモンで、成熟骨細胞は局所のFGF受容体(FGF receptor:FGFR)を介して血中リン濃度を感知し、血中FGF23濃度を調整している。FGF23は腎近位尿細管におけるリン再吸収を抑制すると同時に、1α水酸化酵素を抑制し、24水酸化酵素の発現を促進させ、25水酸化ビタミンD(25 hydroxy vitamin D:25OHD)1,25OH2Dを低下させることで血中リン濃度を負に制御している 1, 2)。
FGF23の慢性的な過剰産生などによる慢性低リン血症では骨石灰化障害が惹起され、骨端線閉鎖前ではくる病、骨端線閉鎖後は骨軟化症を呈する。FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症のうち頻度が高いのは、先天性のXLHと、後天性のTIOである。XLHはX染色体上のphosphate-regulating endopeptidase homolog, X-linked(PHEX)遺伝子の機能喪失型変異が原因となる。TIOは、骨や軟部組織に発生するPMTによって引き起こされ、原因となるドライバー変異としてfibronectin1(FN1)とFGFR1との相互転座などが報告されている 3)。